日軌式軌道用品の開発
日軌B型タイプレートの開発
日軌B型タイプレートは「渡辺式タイプレート」を改良し商品化したものである。
日本軌道工業の発足と同時に、この「渡辺式タイプレート」に改良を加え、昭和26年日軌B型タイプレートを開発した。B型タイプレートは、厚鋼板から型鍛造によって成型するポルト締結式の特殊タイプレートで、特殊な鍛造作業による単一工程で製作できる低価格のタイプレートであった。なお、このタイプレートの開発に当っては、総理府から昭和26年度科学技術研究補助金の交付を受けた。そして昭和27年、日本国有鉄道に指定採用され、以後 、 日本軌道工業の主力商品としてその発展の基盤を形成してきたのであった 。
ちなみに日本国有鉄道発行の“鉄道技術発達史"によると、国鉄で初めて採用したPC(プレキャストコンクリート)枕木鉄研型に渡辺式タイプレートが使用されている(下図)。
「斬新な設計と製法」をキャッチフレーズとする日軌式タイプレートは、保線現場を臨床として開発されたユニークな製品であった。そこには軌道用品の製造・販売に対する渡辺の経営理念が集約されているといっても過言ではない。

【日軌B型タイプレート】

【国鉄編集「鉄道技術発達史」より
鉄研型に使用されたタイプレート図】
渡辺は「タイプレート」の必要条件を次のように定め開発を目指したのである。
1. 軌条締結がすぐれていること
つまり、レールクリップの弾性やポルト緊締、たわみ等が適切であること
2. 保守作業が容易であること
3. 耐久的でかつ格安であること
日軌式B型タイプレートは、軌条をボルトで弾性締結する方式で軌条締結力の大きいものとなった。その結果、匐進の多い線路や軌条軸圧の大きくかかる長大レールの線路に特に効果を発揮した。
保守作業の簡便化にもいくつもの技術的研究がなされている。まずタイプレートと軌条の締結をボルト式にしたことから軌間修正、まくらぎ更換も2本の犬釘を打ち替えるだけですみ、早く作業を行うことができる。また、犬釘の打込回数が少なくてすむことから犬釘孔不良に起因する枕木更換が減少された。さらに軌条更換もボルト緩解のみで犬釘に手をつけずに作業かできるメリットも大きい。その他、夜間作業も手さぐりでポルト締めが行え、ポルトの空転および逆転防止付である。
耐久性と価格は型打鍛造で品質が均ーとなり、レールの互換性にも富んでいる。この定寸にシャーリング加工を施した原材料を加熱鍛造する工法は、製法特許でもある。これは、普通型打鍛造の50%の原価で製造できる特殊製法であった。
ともあれ、この日軌式B型タイプレートは、 ピーク時には年間20万枚の納品実紹をあげ、国鉄・私鉄に採用されたが、コンクリートまくらぎやコンクリート道床の普及によりその使命は二煎弾性締結を主眼とした枠型タイプレート、V型タイプレートにとうけ継がれていった 。
続々と新製品を開発
昭和26年、先にのべた日軌B型タイフレートについて、総理府の科学技術研究補助金を得たのをはじめに、昭和29年度から 3年連続して科学技術研究補助金を受けて、挫屈止金具・軌間 ゲージ・ 日軌式フックボルトなどが開発された。
いずれも保線現場を知る渡辺社長のアイデアから生みだされたもので、これ以後その時々に必要と思われる新製品が次つぎに開発されていくが、ここでは当時の主なものに限って紹介したい 。
●日軌式フックボルト
橋まくらぎを橋ゲタに定着させるために用いられるフックボルトは、まくらぎの厚さおよびパッキンの厚さにより、ボルトの働き長さが多種多様で外山鉄道研究所勤務時代から、その管理・選別に困惑した苦い経験を持つ渡辺社長ならではの発想と設計思想から作られている。
主な特徴は次のとおり
①列車の振動でゆるみにくい
②フック部が背向にならない。
③ボルト長さは300 mm 1種類でパッキンの厚さは関係なく使用できる。
④単価が安い。
⑤フック部の曲げ強さが従来の鍛造品に比べて約2倍ある。
⑥ベロ座金(爪座金にスプリングワッシャー付のワンピース)のため作業が容易である。

【日軌式フットボルト】
●期間ゲージ
軌間ゲージは、 日本軌道用品工業時代からの製品で、各種の特許をもっており、 日本軌道工業として営業開始後は国鉄の指定品として大きな納入実績をもっていた。その後も改良を加え、誤差や狂いのない化学材料を使用した近代的デザインのワンタッチ検測構造。三点爪で安定度、直角度があり水準カントバニャー微動ダイヤル、軌間はカーソルの直読式で、夜間もパイロットランプ透視目盛りで作業ができる構造になっている。
当社の軌間ゲージが国鉄の指定品になる前は、軌間ゲージといえば理論的にも実際的にも不都合なものであった。渡辺社長がいくどとなく合理的なものをと主張してきたが、採用には至らなかった。しかし、ついに日軌式の合理性が認められ、採用されるという経緯がある。
ちなみに、その後渡辺自身も軌間ゲージと水準器のJIS規格 の選定委員に任命されている 。

【軌間ゲージ】
●脱線防止用タイプレート
鉄道において列車の脱線は、昔から乗客の安全・輸送の確保にとってきわめて大きな問題である。したかって脱線防止については種々の方策がとられていたが、確たる決め手となるものはなかなか生まれなかった。

脱線防止用タイプレート
軌間拡大または乗り上がりによる車輌脱線を防ぐ機材として昭和29年に開発した「ガード段付型日軌式タイプレート」は、四鉄局の調査により軌道狂発生比率、まくらぎくい込み比較、保守労力比較等いずれにおいても有利であることが公表された。このタイプレートは、取外しが簡便な上、強度も確実で、正確な敷設ができ、犬釘打替が少なくなるため、まくらぎの破損がなく、脱線防止用としてのみならず、踏切道の護輪用としても使用できる等の特徴をもっていた。さらにこれに改良を加え昭和31年、「脱線防止用ガード段付型タイプレート」を開発し販売した。この「日軌式ガード段付型タイプレート」は、脱線防止レー ルの敷設区間に使用する特殊タイプレートで、ボルト・クリッ プ式(GB)と犬釘式(GS)がある。いずれも本線レールとガードレールの間隔は車輪の幅よりせまくした上、脱線防止レー ル座面を本線レール座面より10mm高くしてある。
このため、 日軌式ガード段付型タイプレートは次のような 特徴を持っている。
①車輪の乗り上がり脱線を未然に防止する。
②軌間や通り狂いが起こりにくい。
③レール匐進が起こらない。
④チョックやアンチクリーパーが不要。
また、本線レールの確実な締結が軌道強度を高めて、脱線極限値を著しく引き上げた。加えて、取りつけ取り外しが容易で確実な敷設ができ、脱線防止用としてだけでなく踏切道の護輪用としても利用できるなど多くのメリットを持っている。

●挫屈止金具
レールは温度差によって伸縮しようとするが締結装置以下の抵抗によりレールに軸圧力が起こり、道床抵抗が不足する時は軌道が挫屈して、いわゆるレールの「張り出し」が起こる。挫屈は軌道に直角の方向にたいしては軌框の横曲げ強度による抵抗力のほか、枕木側面およぴ下面の道床摩擦抵抗と道床肩幅にある砂利と枕木端面との抵抗によって防止されることになる。したがって軌道の挫屈を防ぐためには、軌框の直さを増すか、道床肩幅を増して枕木端面の砂利抵抗を増加させることが必要になる 。
この点に着目して、軌道の横方向の砂利抵抗を倍加させる安価な挫屈止装置を考案したのである。枕木の軌間中央部側面にこの止金真を打ちつけ、その金具の溝部へ枕木純間隔の長さで、厚さ2寸(6.6 cm)深さ5寸の木板(ヌキ)をさし込む。
これによって軌道の横抵抗が倍加される仕組みである。
この装置は、総理府の昭和30年度科学技術研究補助金を得て実験が行われた。

【挫屈止金具(表・裏)】


●踏切反射鏡・道路反射鏡
列車運行に伴う事故の防止を目的にして設立された運輸省運輸技術研究所の提案により、鉄道踏切道に国鉄規格品として採用された踏切反射鏡を改良開発したものである。踏切反射鏡 は、複線用・単線用を基本にして9種頬に分類されるが、 日軌式反射鏡はそのいずれにも適用できるように設計されている。
主な改良点は次のとおり。
①硝子鏡面を強化するため、裏面に鏡と同一の曲率を持った特殊防水ボードを貼り合わせた。
② 鏡面の歪み、曇り等の起こらない製造法を開発した。
③支柱を基礎からの一本通しのJIS規格鋼管とし、風圧や列車の振動に耐える強度にした。
④鉄板をプレス加工したフードで強さ、耐久性を持たせた。
⑤鏡裏板部分に特殊鋳鋼の金具を取りつけ、重量を軽減し、かつ強度を倍加させた。
⑥完全防錆のパーカー加工を施した焼付塗装。
⑦スコッチライト製の晋報板により夜間でも遠方から確認できる。
⑧溶融亜鉛メッキと真鍮製のボルト使用で錆を追放した。

【踏切反射鏡】

【除草剤散布車】
●除草剤散布車
従来は,除草剤を所定の示方により調合した水溶液を,人力によって散布したり、保線用トロリーに載せる形式であったため安定性に欠け、噴射部もレールレベルから60cmもあったことからその範囲は限定され、効率的とはいえなかった。そこで、昭和29年数々の工夫をこらした除草剤散布車を開発した。
それは、鉄製の低床式専用台車を用い、レールレベルから10センチに噴射孔を多数配列し、屈伸自在のノズルをもつもので車輪は3 tトロリーと兼用互換性があり、取付け・取外しが自在であった。
主な特徴は次のとおり。
①機動性があり給水が敏速
②機械的かくはん自在で薬液が無駄なく散布できる
③扇状交錯噴射孔のため散布ゾーンは自在に変更可能
④軌間外部の唄射部は運転中屈伸自在
⑤混合比および貯水最か常にわかるウォーターゲージつき
⑥ブレーキおよびストッパーつき
⑦完全耐酸を施してあるため耐久性が向上

【コンクリート道床用タイプレート】
● 日軌式コンクリート道床用(灰坑用)タイプレート
列車速度の比較的ゆるやかな線区のコンクリート道床に直接レールを締結するコンクリート道床用タイプレートで、国鉄規格の製品。灰坑・起重機走行路・洗浄台・踏切・転車台等に使用され、次の特長を持つ。
①レール締結度が完全なため、軌道狂いのほとんど起こりにくい半永久的軌道となる。
②施工が簡単で,正確な軌道敷設ができる。
③レール底とタイプレートの座面が鞍型であるため、ボルトやクリップ・アンカーボルト等にレールの波状運動や振動等の無理な力が軽滅される。
④使用鋼材が経済設計されている。
⑤50 K ・37 K・ 30 K等各種レール用の水平および傾斜別に設計されている。
⑥軌道敷設に便利なようにアンカーボルトのタイプレート下面位置に突起を設け、敷設レールに取りつけて仮締めした 軌条を定位證に設定し、軌間・水準・通り・商低を整正のうえコンクリートを打ち込むことによって完璧な軌道が設定される。
●枠型タイプレート
防振・防音・軌道強化、保守周期の延伸を目的としたタイプレートで、ボルト・犬釘式で各種レール用がある。井の頭線の敷設実験の結果、次のような特長をもつことが証明された。
①まくらぎ上面とレール底部との間隔か同一の場合、パッドの厚さが十分に採れる形状・構造であるため、車輪の振動を減衰させる。
②レール締結が弾性的にでき、しかもレール匐進に十分耐え得る。
③車両の荷重がかかった時にパッドは圧縮されても、クリップがバネとして作動し、レールの浮き上がりの力に対し 、弾性を維持してこれに対応できる。
④レール側圧力に十分耐えて、アンカーボルト類に引張り力と曲げ力とがかからない構造である。
⑤保守作業上の支障がなく、レール更換やその他のレール作業に、犬釘の抜き取りを必要としない構造なので、まくらぎ耐用命数を延伸しコンクリート道床のアンカー埋設部が保護される。

枠型タイプレート(ボルト式)

枠型タイプレート(犬釘式)
●踏切タイプレート
踏切道では、列車荷重に加えて自動車荷重により一般線路よりも軌道の破壊力が増加する。また、舗装等により排水や保守管理も悪化するため列車や自動車荷重の振動加速度を最も効果的に滅衰させる方策としてタイパッドを使用した踏切用タイプレートで、パッドの厚さによって調整し、本線レールとガードレールとの輪縁路を65 mm, 70 mm, 75 mmに調整できるクリップによって締結する特殊構造である。レールの種類別にそれぞれの型があり、現場のどんな要求にも応えることができため国鉄、私鉄から好評を博している。
なお、昭和33年3月にはこの時期に開発されたこれらタイプレートの各種製品を統合して「タイプレート図集(A 4判ヨコ組)」を発行、販売促進の査料とした。

踏切タイプレート(枠型)

枠型タイプレート荷重振動実験台

枠型タイプレートのレール最大変位測定(井の頭線実験区間)

【ガードレール間隔材】
●ガードレール間隔材
踏切道のガードレールと本線レールとの間隔を保持するものとして意匠登録されたユニークな製品。間隔材は輪縁路の確保が主な目的だが、本線レールとガードレールとを間隔材を介してボルトで結ぶと、本線レールの匐進をガードレールに及ぼし軌道弛緩の原因となり、緩衝材や舗装の破壊を早めていた。また、本線レールに穿孔するためレール強度の弱化と施工の繁雑などをきたしていた。
これらのマイナスを考えると、間隔材はガードレールに 固定させて、本線レールとは遊離させその間隔を維持する目的にのみ使うことにしたのか、ガードレール間隔材である 。
鋳鋼または一般構造用鋼を使用して材質を強靱にしボルトの長さも短くして、使用材の節減を図った。しかも弛緩防止にスプリングワッシャーを併用しても、全体のコストは従来より安価に製造できた。
24種類もの各種レールと組み合せができ、軽屈で使いやすい ことから年間数万個を生産している 。

【グリースキャップ】
●グリースキャップ
ドイツ国鉄型のスプリングワッシャー締結方式に適した強化プラスチック製のグリースキャップでレール締結後、スプリングワッシャーにグリースを塗りキャップをかぶせて2, 3回つまむことによりグリースがワッシャーの内側まで圧入される。弾性締結用ばねとネジ山の完全防錆ができるのでトンネル内や海岸線、撒砂区間あるいはホーム下など腐蝕され易い場所の使用に適している。
Vばねの開発と弾性締結

【Vばね】

【Vばねの特性曲線】
昭和30年代に入ると枕木のPC化を始め、あいつぐ地下鉄の開業、製鉄業の隆盛による重軸重線区の拡大等により軌道のコンクリート道床化が進展した。そうなるとレールをいかに コンクリート道床に弾性的に締結するかか大きな問題となってきていた。
国鉄では、 コンクリート道床へのレール締結用クリップは、板ばねを使用したフランス式と剛性クリップにスプリングワッシャーを併用したドイツ式とに分かれていた。当社がこの時代に使用していたのは剛性クリップとスプリングワッシャーを使用したドイツ式であったが、昭和33年に至って渡辺社長は、剛性クリップの性能をさらに上まわるV (Volute)ばね(円錐渦巻ばね)の開発に成功した。この製品は、渦巻型の各コイルの厚さを変えることでバネに加わる力とたわみ量が一定比率になるように設計された“竹の子ばね"であった。
しかも、内径と外径がほぼ円形に形成されるため強大な圧縮力に耐え衝撃力の吸収消散効率が高い上、材料費の節約と製造が容易という実用的特徴ももっていた。このVばねの開発により各種レールの弾性締結が容易となり、後のV型タイプレート、連接軌道、NS短枕木(NS短ブロック)の締結等コンクリート道床工事伸長の鍵となったことは特筆すべきだろう 。

【各種ばねクリップのたわみ曲線】

【Vばね 設計応力 19mmボルト用】